【おばあさんと僕】〜後編〜
※ 前編のつづき
そのある出来事とは、
動物園の件から数ヶ月後の、ある冬の日だった……。
昨日のことのように
ふと思い出した
遥か昨日のこと……
僕が小学校から帰宅途中、あまり接したことのない近所のおばさんが、やたらと僕の顔を見ては、変な笑顔をしている。
僕は小学6年生にもなっているので、
(なんなんだ!?何で笑ってくるんだ!?)
という少し腹立つ感情になっていた覚えだ。
そして帰宅した。
家の中に入ると、母親がおり、
直ぐに母親は僕に話しかけてきた。
『おばあさん、救急車で運ばれたよ」
「えっ!?」
『トイレで倒れとったから、直ぐに救急車を呼んだよ』
「え!?」
『お父さんはおばあさんの付き添いで、救急車に乗って病院に行ったよ』
何やら大変なことになっていた。
僕が帰宅して少ししたら、父親が帰ってきた。
母親、弟、僕は父親が運転する車に乗り、おばあさんのいる病院に向かった。
病院へ向かう途中、僕はあることを思い出した……
それは、救急車で運ばれる2日ほど前のことである……。
おばあさんは、
『後ろから、金づちか何かで叩かれたように頭が痛い』
と言っていた。
その日のうちに近所の病院に行ったが、
風邪だということで、風邪薬をもらって帰ってきた。
それから2日間、頭痛が治る様子はなかった……。
そんな出来事を思い出しながら、病院へ着いた。
おばあさんは集中治療室で寝ていた。
集中治療室に入るときには、
僕ら家族は、上下白色か水色のものを着せられ、帽子にマスクをしていた。
おばあさんは
寝ていたと言うよりは、仰向けで目を開けたまま意識がない。
呼吸はしている。
人のこんな姿を初めて見たので、正直怖かった。
父親が病院の先生から聞かされた病名は、
《くも膜下出血》
とのことであった。
これにより
おばあさんの症状を、ただの風邪で済ませた病院は、ヤブ医者ということが判明した。
手術をしようとしたが、どうやらその時に発覚したのだが、おばあさんは心臓も弱っていたということだ。
手術はかなり危険ということで、手術できる状態ではないとのことだった。
僕は意識のないおばあさんの手を握った。
暖かかった。
(おばあさん、ごめんね……
ぼく、おばあさんと動物園行かなくて、
ごめんね)
僕は涙しながら、そう心の中で言った。
すると、不思議なことが……
おばあさんは、僕の手を握り返した。
その時の温もりと感触は今も覚えている。
……それから1週間後、おばあさんはそのまま亡くなってしまった。
僕は、おばあさんと動物園に行かなかったことを深く後悔した。
涙は枯れても心の中の涙は枯れない。
……
おばあさん…… ごめんね。